とおっしゃる“主婦”から電話で鑑定のご予約をいただいた。
“主婦”の住まいは当店舗の近くにある公団と診た。
「アタシの家は、ここから近いのォ~」。
鑑定の当日、駐車場まで出迎えると千里眼(主婦)はそう言った。
年季の入った小さなクルマに乗ったまま
「あら、先生は男性なのね。てっきり女性の占い師さんかと思ったァ~」。
だと。
私の声は電話越しだと細くてかん高いようだ。
「ここに来るまで何回も道に迷っちゃったァ~」。
だそうだ。
千里眼(主婦)は鑑定が始まっても私のことばかり知りたがるので、
仕方なくロンドンに滞在したことがあると話すと
「行ったことのない国なんでぇ、想像もつかないなぁ~」。
と言った。
大したお構いもしなかったが鑑定も終わる時間近くになると
「今度は先生のことを占いたいなァ~」。
と来た。
千里眼(主婦)の見立てによると私は宇宙人だということだった。
私が、
―会う人みんなにそう言ってるんだろ?―
と詰めると千里眼(主婦)は
「当たりィ~」。
と言ってゲラ笑いをした。
大きく曲がった顔からは1本だけ前歯が飛び出している。
「でも、みんな大まかに括(く)くれば宇宙人よねぇ~」。
何かアドバイスを、ということだったので私は占い小屋をやっていると、
たまに本物のヤバい奴、つまり死霊が憑依した客が来ることもあるので気をつけるよう
老婆心を出して伝えた。
千里眼(主婦)は今日も自宅で宇宙人と交信していることだろう。
あなたも彼女の千里眼占いを一度体験してみてはいかがだろうか?
きっと判で押したように宇宙人だと言われてしまうが物は考えようだ。
寂(さ)びれた寺に普通に行って普通に御朱印をもらうのも良いが、
たまには三面記事に出て来そうな公団住宅の一室に出かけてみるのも乙なものだ。
ちなみに他人の家なんぞに興味はないが、立ち枯れの木が目立つ千里眼宅のベランダには、きっとアルミ洗濯竿が1本だけかかっているはずだ。
そして少し目を落とすと二層式の洗濯機がまだ現役で活躍しているだろう。
下半分だけ花模様のかかったサッシ戸からはゴムでできたピンク色のサンダルが
片方だけ透けて見える。
部屋の到るところにフェルト人形とパワーストーンと塩盛りが置いてあり、
台所の換気扇の棚には夥しい数の洗剤ボトルが立ち並んでいる。
あなたはこうした千里眼宅の部屋を眺め終わるか終わらないかのうちに
「あなたは凄いわよ!宇宙人よォ~」。
と言われるだろう。
そう言われたからとて緻密に重なり合う星の意味や、
最新の天文学を解説するような野暮な輩ではないので安心して欲しい。
しかし彼女は悪気はなくても旦那が稼いで持って来るなけなしのサラリーと、
あなたの貴重な時間を奪うことを趣味にしていることは事実だ。
その代わりといっては何だが、あなたが乗って来たクルマは公団周辺の青空に停め放題で
鑑定料金も宇宙に行くほど高くはない。
私は他人の無邪気な趣味に付き合える度量のある人間こそ宇宙人...いや、
粋人と呼んで間違いないと思っている。
粋人のあなた!
彼女がマトモであるうちに、よろしければぜひ!!
あらっ
可愛いっ!
今日は女の子の
宇宙人さんだわ!!
Rav.(La vie!).Hiroaki Ohori
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